発明家になる方法

発明工房 藤村 靖之

 職業の選択肢の一つに“発明家”を入れて頂きたいと思います。新しい原理を発明する“科学者”や、既存の原理を使って目的のモノを作る“エンジニア”と違って、“発明家”は“新しい組み合わせ”を生み出します。日本では “発明家”は(残念ながら)尊敬されません。明治維新以来、欧米をお手本にして成長してきた日本では、新しいモノを生み出す必要が無かったからかもしれません。しかし、これからは違いそうです。欧米に追いついて豊かになった国がいつまでも“物真似大国”というわけにはいきません。新しいモノを生み出していかなくては外国から尊敬されないどころか、国自体が成り立たないような時代にすでになっているのかもしれません。ですから、これからは“発明家”が求められ尊敬されることになりそうです。特許を出願してから登録されるまでに日本では7年も掛かりました。フランスなら6ヶ月、アメリカなら1年、中国や韓国でも1年半なのに日本は7年です。特許の国際条約に加盟している180カ国中180番目、つまりビリの速さです。ついこの前までのことです。“物真似大国”と言われる所以です。ビリがいきなりトップに躍り出ました。つい最近のことです。私の場合、特許を出願してから登録になるまで、最短で3ヶ月、最長でも6ヶ月しか掛けていません。こんな国は他に有りません。文字通りトップです。この特許制度の改革には私自身も少なからず役割を背負いましたが、自分が生きている間にこういう時代が訪れようとは夢にも思いませんでした。“物真似大国”から“創造立国”への転換の意気込みの表れと見てもよさそうです。発明家が求められ、尊敬される時代に本当になりそうです。発明家を皆さんの選択肢の一つに是非入れて頂きたいと思います。

 困ったことがあると普通の人は辛いのですが、発明家は辛くありません。発明して困らないようにすればいいと思うからです。発明がうまくいかないとやはり困るのですが、辛くはありません。世の中が上手くいっていないと、普通の人は他人の所為にします。政治が悪いとか教師が駄目だとか・・・。発明家は発明でなんとかできないかと考えるので、決して他人の所為にしません。そういう点では起業家も同じです。発明家や起業家はいつも自分の役割で物事を捕らえて行動したがります。ですから、困ったことや上手くないことが多いほど発明や起業のタネが増えて結構シアワセです。「わかっちゃいるけど変えられない」という時代こそが発明家や起業家の出番・・・とはよく言われることです。「ホラこうすればできるでしょ!」とお手本を示したり突破口を切り開いたりします。すると世の中が大きく動き出します。今が丁度そんな時かもしれませんね。

 楽天的で好奇心と反骨精神が旺盛(ベストセラーになった本は意地でも読まないとか)・・・これが発明家に求められる素質と言えそうです。“熱い心”がそれに加わると申し分ありません。独創性があることが条件・・・・とよく言われますが、ちょっと違うような気がします。このような性格の人が“発明家”を意識して訓練すれば、独創性は磨かれていきます。初めは独創力に乏しくても磨き上げれば済むことです。こういう性格の方が公務員やサラリーマンになると、直ぐに上司と衝突したりして、あまり幸せな人生にはならないケースが多いようです。反対に、慎重で堅実で従順な性格の人は公務員やサラリーマンになると幸せそうですが、発明家には向かないようです。ご自分の性格を判断していただきたいと思います。

 発明を生み出す方法や発明家として大成していく方法は、人によってイロイロでしょうが、私の場合の方法を2〜3紹介します。先ずは「自分は発明家だ!」と思い込むことです。そして、(自分にとって)新しい技術や知識に好奇心を働かせ、一段掘り下げて(出来れば五感で感じて)発明要素としてインプットしておくことです。発明は「新しい組合せ」ですから、組合せ(結合)が頭の中で生じ易い形でインプットしておく必要はあります。単なる知識や丸暗記では、結合は生じません。例えば形状記憶合金という材料を初めて知った時、サンプルの形状記憶合金製のスプリングを仕入れてきて(日本橋の電気街で200円ぐらいで手に入ります)、塑性域(元に戻らない処)まで引き伸ばしておき、両端を両手で引っ張ったままお湯に漬けてみてください。予想外の力で縮み驚かされます。これが五感で感じるということです。理屈もついで知っておくと尚いいでしょう。平行して、「こういうことができないかな?」という問題意識を強く持ち続けることです。人によって違うのですが、一般的には問題(テーマ)を同時進行で複数持っておく方が良さそうです。四六時中考えていると、突然結合が生じることがあります。前段の発明要素のインプットが弱かったり少なかったりだと、結合は生じにくいのですが、インプットが強く、多くなると、結合は案外簡単に生じます。

 既成概念から自分の頭脳を自由にしておくことも結合を生じさせる秘訣の一つです。私の流儀ですと、物になり切るプロセスを前段に設定します。空気清浄機を発明する時は「私は空気!」になる切る努力をしてみます。実際にやったのは、空気中の酸素や窒素原子を1億倍に拡大すると丁度ピンポン玉の大きさになりますから、2つのピンポン玉の夫々の1/3を切り捨てて接着すると、酸素分子や窒素分子を1億倍にしたものになります。白いのは窒素、オレンジ色のは酸素にして、部屋中に天井から糸で吊します。夫々の距離も実際の空気の場合の1億倍を計算してその通りにします。これだけの作業には数日間を要するのですが、これを他人に手伝わせずに自分でやります。こういう(馬鹿馬鹿しい)作業をやっている内に、段々「私は空気!」という気分になります。それから、空気の自分がどういうふうにキャッチされたいかを空気側から考えます。風車を発明した時には「私は風!」になり切る。この方法は簡単でしたが、掃除機を発明した時は「私は埃!」というのは抵抗感があって、なり切るのに苦労しました。

 着想が生じると「直ぐに試作・実験」です。私の場合は「着想したら2週間以内に試作・実験開始」が鉄則です。それ以上間を置くと、悲観的になってしまう自分を知っているからです。試作・実験は1回や2回で上手く行くことは皆無です。30年間も発明家家業をやってきて千件くらいの発明を生み出してきましたが、3回や4回で上手くいった経験はありません。私の基準軸は15回です。ですから7回や8回の失敗ではメゲません。3〜4回の失敗でメゲてしまう人が大半のようですから、15回の基準軸は随分と有利な立場を生み出すような気がします。尤も、失敗の原因が理解でき、新しいアイディアが生まれなければ其処で終わりにしてしまいます。ですから、失敗を科学と感性にフィールドバックすることが必要です。そうしないと次に進めません。此処で科学が重要になってきます。科学は大抵の場合、こういう後講釈に有効です。“結合”は感性で後講釈は科学・・・こういう分担になるようです。

 私は最近の発明を幾つかご披露しましょう。これは、手で400回振るだけでフル充電できて、半永久的に使える乾電池です。普通の単3乾電池と全く同じ大きさで同じ電圧ですから、同じように使えます。内部に区化学物質を使っているので気に入っていません。完全にメカニカルな手動充電乾電池に改良したいと願っています。この発明に参加したい学生さんは手を上げて下さい。仲間に入れて差し上げます。これは、昨日作った水筒です。勝手に温度が下がっていって中の水を冷たくします。一度冷えたらそのままの温度を保ちます。水道水を入れておくと安全でおいしい水に変わります。こういう水筒を流行らせて、PETボトルや自動販売機を少なくしようという大学生の運動が起こり始めています。この1回目の試作品は「ステキ×2」でないので、失敗です。この水筒を完成させる発明と「水筒ムーブメント」に参加したい方は手を上げて下さい。仲間に入れてあげます・・・・・・・(以下、発明の紹介省略)。

 発明を生み出しても、生産できなければ製品になりません。ですから発明家は生産についても深く知っておく必要があります。生産できたとしても売れなければ商品にはなりません。発明家はマーケッティングについても詳しくなければ上手くありません。新しいモノは売りにくいことを考えると、並のマーケッティング能力では勤まりません。つまり、発明家は科学から生産、マーケッティングまでの深い造詣を持った上で、感性を生かして新しいものを次から次に創造して人助けをしていくという仕事です(チョット大変かな?)。時には大金持ちにもなります。どうですか、発明家を選択肢の一つに選んで見る気分になって頂けましたか?


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